E・バーンは「人間は退屈ということに耐えられず”ゆりかごから墓場“までの自分の一生を6つの方法を使って構造化する」と提唱しました。人は、目的のない退屈な時間に対して大きな苦痛を感じます。このため、人との交流によってなんとかその時間を埋めようと時間を消費(構造化)します。その方法として6つの時間の使い方があることを提唱したのです。E・バーンは、人が、①閉鎖・自閉(withdrawal)②儀式・儀礼(rituals)③雑談・気晴らし(pastimes)④活動・仕事(activity)⑤心理ゲーム(games)⑥親交・親密(intimacy)の6つの方法を用いて、人との交流の時間を構造化することを指摘しました。この6つの方法を使い分けて、人は毎日時間を構造化しています。

 時間の構造化について、ストローク理論から説明すると、私たちが他人との交流時間をどのように費やすかは、他人からどのようなストロークをもらいたいかという私たちの傾向に関係していると言い換えることもできます。つまり、他人との交流の時間は、ストロークを受けたり、与えたり、拒絶したりすることで構造化されてゆきます。このストロークの出し入れは、その人が持つ人生態度から多大な影響を受けます。

 そして時間の構造化は①から⑥と数字が大きくなるにつれて得られるストロークの密度も上がると考えられています。6つの時間の構造化には、それぞれ受けたり得られたりするストロークの種類(肯定的または否定的)の特徴があります。自分または他人またはその両者に対してnot OKの人生態度を持つ人は、時間の構造化を自由に選択して行うことができず、偏った時間の構造化をとる傾向があるといわれています。そのため、このような人生態度の人は、今ここの自分の状況や気持ちにあった時間の構造化ができないので、精神的バランスを崩しやすいと考えられています。それぞれの時間の構造化の特徴と得られるストロークやその密度について知識を持ち、自律的に時間を構造化することで、ストレスに強い心理的回復力(レジリエンス;resilience)を身に着けることができると考えられます。対人サービス業である獣医業は、自分のペースで業務をすることが難しいストレスフルな業界です。よって、獣医師が時間の構造化の概念とそれを自律的に調整する能力を身に着けることは、仕事で自身の幸福を実現し、ひいては利用者である飼い主の幸福を実現してゆくうえで重要であると考えられます。

時間の構造化

6つの時間の構造化

 

 ここで6つの時間の構造化の特徴を整理しておきます。

①閉鎖・自閉(withdrawal)

 身体的または精神的に自分を他人から引き離し他人とのストロークのやりとりを避けることで行われる時間の構造化です。人と一緒でも物思いにふけったり、空想したり、またはその場を離れたりすることで行われます。ストロークの供給源は自分自身です。孤立することで他人からのストロークは得られなくなり、他人からの影響を受けて自身を変化・成長させてゆく機会は得られなくなりますが、情緒的かかわりによって被る被害を避けることもできます。閉鎖・自閉ばかりで時間を費やす人は精神不調に関連することもありますが、ある意味最も安全な時間の構造化の方法です。健常な人でも弱っていて精神的なエネルギーが衰弱しているとき閉鎖・自閉の時間の構造化を用いて自身のエネルギーを補給することができます。

②儀式・儀礼(rituals)

 「おはようございます」「いい天気ですね」など伝統や習慣によって決められた単純な相補的交流による時間の構造化のことをいいます。冠婚葬祭で行われる挨拶なども含まれます。お互いに存在を承認するのに、人が同じことをして時間を過ごすことが決められているので、親しくしすぎることもなく予測可能的に時間を消費できます。主に密度の弱い肯定的ストロークを安全に交換することができます。儀式・儀礼は、安全に対人関係を潤滑させることができる交流で、親密度の低い人との交流において交流のスタートとして利用することができます。その安全性から、特に閉鎖・自閉しか行わない人がその時間の構造化から脱却する第一歩として用いることができます。

③雑談・気晴らし(pastimes)

 仲間と飲み会したり、主婦が井戸端会議をしたりするような比較的単純な相補交流のことをいいます。期待できる肯定的ストロークを得ることができるため、楽しく、自身の存在承認を確認できるメリットがあります。親密度はあまり高くないですが、相手の人柄をある程度見極めることも出来るので、この後続く心理ゲームや親密・親交の時間の構造化につなげるかどうか判断する準備の段階であるとも考えることができます。また、人は雑談・気晴らしによって自身の持つ人生態度を強化することも行っています。雑談中発せられる「あの人はどうもねぇ」などという意見に対してもらう反応によって自分の人生態度を強化する効果が生じます。

④活動・仕事(activity)

 生産的な行為によって自己肯定感を持ち、周りからの存在承認を得る時間の構造化です。生産的・創造的な部分があり大きな満足感を得ること(肯定的ストロークを得ること)ができます。反面、仕事がうまくいかないと否定的ストロークを被ることにもなります。また、仕事に没頭する間は、人と親密に交流することを避けることができます。このため、心理ゲームや親密・親交などの他人と密接に関わって過ごす時間の構造化を避けることができます。このような人は、仕事を退職することによって、不安やイラつき、自身の無力感などに悩まされたりすることがあります。得られるストロークの密度は高まりますが、親交・親密で得られるような肯定的ストロークと比べると偏りがあることがあります。

⑤心理ゲーム(games)

 前述で詳しく説明した心理ゲームです。ストローク飢餓に陥っている人は、心理ゲームで得られる否定的ストロークでも手に入れようとするため、心理ゲームで時間を構造化しようとします。親密度の高い関係で行われるため、濃厚な否定的ストロークを得ることができるメリットがありますが、非生産的で不毛な時間の消費の仕方でもあります。

⑥親交・親密(intimacy)

 お互いに信頼し合い、頼り合い、相手の言葉や気持ちを受け入れ、自分の気持ちに率直な意見を言い合える(自己開示できる)交流関係です。お互いに「自分も他人もOK」という人生態度からの交流のため、主に肯定的ストロークを交換することができます。親交・親密は自我状態のP、A、Cがどれも活発に活動している状態です。今ここでの自分の状態に十分に気付いており、自律的に自分を変化・成長させることができる時間の構造化です。反面、親密な関係はAC(順応した子ども)にとって恐怖であり、人は傷つきやすくなることもあります。愛情か拒絶かという予想がつかない状況での交流よりも雑談や仕事などある程度予想のつく時間の構造化で人は時間を費やしがちになります。交流分析では親密・親交で時間を構造化してゆくことを増やすことがゴールと考えています。

時間の構造化の種類と特徴

 自分が行っている時間の構造化の傾向を知ることは、自分がどういった生き方を行いやすい癖があるのかを把握するために有効です。その生き方が自分にとって好ましいのであればいいですが、もし自分が納得していない時間の構造化をする傾向があるのであれば、時間の使い方を見直すことで望ましい生き方に変革してゆくことも可能です。

 また、時間の構造化のバランスが著しく偏ってしまっていると、心身に不調を生むことに繋がることがあります。時間の構造化のアンバランスは、自分の意思で自分の生活や時間の使い方をコントロールできていないことに起因して生じているので、交流分析の目標である自律性の獲得から大きく外れてしまっているからです。自律性が著しく障害されれば、自分の望む人生を獲得することが困難になると交流分析では考えます。たとえば、仕事による過労です。活動・仕事の時間を過剰にとりすぎることで、心と体のバランスを崩すことがあります。このような時、時間の構造化の傾向を把握し、そのバランスを見直すようにするだけで、崩れた心のバランスを取り戻すことも出来ると考えられます。

 時間の構造化は後述する人生脚本と大きく関わっていますので、自身の時間の構造化の傾向をつかむことは、自分の人生脚本を知る助けにもなります。

時間の構造化概念の利用法