現在、ペットとして飼育される日本の犬猫の頭数は、約2100万頭(犬1150万頭、猫970万頭)と言われています(一般社団法人ペットフード協会,2013)。日本の核家族化が進む中、犬猫は家族の一員として飼育されることが多くなりました。癒しの対象、話し相手、時には自分自身またはそれ以上の存在として飼育されることも珍しくありません。このようなペットの家族化にともない、獣医療は人と同様な医療水準が要求され、CTやMRIなどの高度な診断機器を用いた治療が行われるようになりました。飼い主の価値観やニーズに応えるため、獣医療技術は目覚ましい発展を遂げています。

 飼い主のニーズの高度化や獣医療の発展に伴い、獣医師と飼い主が関係する様々な社会的問題が顕在化してきています。その一つに獣医療過誤による訴訟問題があります(佐藤ら,2008)。裁判になるケースでは、未熟な獣医療技術だけでなく、不適切な獣医師のインフォームドコンセント(説明と同意)を問われる判例がみられるようになりました。獣医師は、治療におけるコミュニケーション能力を問われ始めていると言えるでしょう。

 また、動物虐待やネグレクト(飼育放棄)、ペットを失った飼主が陥るペットロス症候群などの飼主とペットとの間に生じる人間の心理社会的問題も目立つようになりました。ヒューマン・アニマル・ボンド(人と動物の絆)が語られるようになり数十年になりますが、ヒューマン・アニマル・ボンドをどのように実現してゆくのか、私たちは具体的に考える必要に迫られているのかもしれません。

 欧米においては、獣医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)や獣医師の自殺率の高さなども話題になっています。日本でも新卒獣医師がリアリティーショックにより、勤めた動物病院を早期に退職する事例をよく耳にします。中川(2012)は、獣医師は様々な要因から多大なストレスを受けることを指摘しており、職場における人間関係や労働環境の整備において獣医療業界は遅れているのかもしれません。

 このような社会や人間心理がかかわる問題に取り組む必要性に獣医業界は直面しているといえます。

獣医療を取り巻く諸問題