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 交流分析(Transactional Analysis;TA)「自律性の確立」を目標とする臨床心理学の一分野です。

 1957年アメリカの精神科医エリック・バーン(Eric Berne,1910-1970)によって提唱されました。交流分析は、精神医学の治療や心理カウンセリングをはじめ、企業や学校など集団生活上のストレスマネジメントに応用されています。交流分析で自律性を確立することとは、①自己理解と気づきを高めること②自分の意思で決定しそのことに責任を持つ能力(自発性)を高めること③他者との親密な交流を回復する能力を高めること、としています。自律性の確立を通してはじめて人は自分の可能性を充分に発揮して生きることが出来ると交流分析では考えます。臨床心理学において、恒常性(ホメオスタシス:身体が内的に一定の平衡状態を保つ仕組み)は、心理的な側面や関係性の側面でも生じると考え、心理的恒常性を保つ環境を整えることが心理的成長、ひいては自律性を育むことに繋がるとする考え方があります。交流分析は自己理解と気づきから、他者との交流を見直し、心理的恒常性を発揮させ、自律性を回復させることを目指していると言い換えることも出来ると思います。

交流分析(TA)とは

 交流分析には、学ぶことによって得られる効果を自分や他者の幸せと成長に繋げるために大前提となる3つの哲学があります。この哲学を根底にもって、後述する交流分析の7つの概要を理解し体得することにより、自己認知や他者との交流様式の理解が進み、生産的な人間関係の構築の一助となってゆきます。

 交流分析では、この3つの哲学と「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる」「自分もOK、他人もOKの人生態度」を前提として、気づき自発性親密さからなる自律性を獲得し、豊かな人間関係を構築することを目標としています。交流分析の3つの哲学とは次の3つです。

交流分析の哲学

 交流分析の理論は、以下に述べる7つの概要から構成されています。この概要を理解し、自身の生活の中で実践することによって、自分の持っている思考や行動様式の傾向に気づき、業務や生活の中で問題となっている対人交流を変容させることで、自律的な人生を手に入れることを目指します。このことにより、獣医療業務などの質を向上させ、治療者自身や飼い主の幸福、引いては動物愛護の実現に寄与することができると考えられます。

①自我状態(構造分析、機能分析)

 交流分析における自己認知の方法論です。自身の心の状態をP(CP、NP)、A、C(AC、FC)に分類し理解します。エゴグラムによってその関係を評価し自己理解をすすめます。

②対話分析(交流パターン分析)

 他者との交流のあり方を理解するための方法論です。主にP、A、Cを用いた他者との対話の様子をベクトルを用いて理解し分析します。円滑な対人交流や少し引っかかる対人交流の様式がどうして生じているのかが理解できるようになります。また、どうしてその対人交流様式が用いられるのかを理解することができるようになります。

③ストロークとディスカウント(値引き)

 交流分析では「あなたがそこにいるのを私は知っている」という存在認知の刺激の一単位としてストロークという概念を仮定しています。E・バーンは、ストロークが人の心身の健康を保ち成長するために必要であることを述べています。人間が持っている自己認知のあり方や他者との交流の傾向は、いままでの人生、特に乳幼児期から幼少期に養育者(親)から与えられたストロークの種類や頻度や性質が大きく関わっているといわれています。自分のストロークの傾向に気づくことによって、他者と生産的な対人交流ができるようになります。

 ディスカウント(値引き)とは、自分・相手・状況の価値を過小評価し、問題解決に関する事象を無視することを言います。ディスカウントは日常生活の多くの場面に関わって、様々な問題のある人間関係に関わっています。

④人生態度

 人生態度とは、自分はOKであるとか、他人はOKでないとか、自分自身と他人を肯定的にまたは否定的に評価しているのかという人生に対する姿勢・基本的な構えのことを言います。治療者自身が自分の人生態度に気づいていることは、円滑な診療業務の遂行に繋がってきます。

⑤心理ゲーム

 人はストローク飢餓を最も恐れます。そのため、たとえ否定的なストロークであっても、手に入れようとします。この否定的ストロークを得ようと繰り返し行われる不快な対人交流が、無意識の間に“くせのようになって”行われていることがあります。この交流を心理ゲームといいます。獣医療業務の中では、非生産的な心理ゲームが執り行われることがよくあります。心理ゲームの意味を知り、そのことに気づき行動を変容することによって、自身の自律性を回復し、他者を含めた幸福を実現することに繋がってゆきます。

⑥時間の構造化

 人間は退屈に耐えられないため、ストロークの交換を行い6つの方法で時間を費やして(構造化して)います。自身の時間の使い方がどの方法にあるのか理解することによって、生産的で有意義な人生を創造することに繋がってゆきます。診療場面における時間の構造化を理解することで、飼い主との親密度やストローク交換の密度などを査定することもできます。

⑦人生脚本

 人生早期に養育者の影響で形作られた、人生の重要な場面での行動を決定するプログラムのことを人生脚本といいます。人生の重要な場面(職業選択、結婚生活、子育て、ストレス処理、生涯の終え方)で、人生脚本が大きく影響してくると言われています。自分の人生脚本を理解することによって、自分の弱点を修正したり、ときに容認したりでき、人生をより豊かにすることに役立ちます。治療者である獣医師も交流分析では人生脚本に支配されていると考えます。自身の人生脚本を知りより良い脚本に書き換える決断をすることで、“力が入りすぎていた肩の力が抜けて楽になるように”無理のない人生を送ることが可能になります。そのことが治療業務にも影響し、被治療者である飼い主とペットや職場の同僚に有益な影響を与えることになると考えられます。また、他者の人生脚本の理解は、その人との交流様式を改善することに繋げられます。人には時に“どうしても苦手な人”が存在しますが、自身や他者の人生脚本に思いを寄せることによって、どうして苦手なのかを理解することができ、“どうしても苦手な人”に対して適切な対人交流様式を選択することができるようになります。

交流分析の7つの概要

1.人は誰でもOKである。

人は誰でも人間としての価値があり、それぞれ重要で尊重される存在です。

2.人は誰でも考える能力を持っている。

人生で何を望むか、どのように生きるかを決める責任はその人にあります。誰でも自分が決めたように生きることができます。

3.自分の運命は自分自身が決め、そしてその決定を変えることができる。

人は他人や環境によって強制的に行動させられることはありません。他人や環境から影響を受けることはありますが、それに従うか決めるのは自分自身でできます。自身の感情や行動に責任があり、それをいつでも変更することができます。

交流分析の3つの哲学・大前提

「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる。」

「自分もOK。他人もOK。の人生態度」

を前提として、

自分と環境に気づくこと自発性を発揮すること、親密な人間関係を形成すること、

を獲得し、自分の人生を自律性をもって構築していくことが交流分析の目標です。

交流分析の哲学
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