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 獣医師自身や飼い主のもつ歪んだ人生態度・幼児決断人生脚本の影響で、心理ゲームに巻き込まれ不快なラケット感情を抱くことがあります。この時獣医師と飼い主のAは抑制的なため、お互いに非生産的な不毛な時間を過ごしてしまいます。Aを働かせてラケット感情やラケット行動そしてそれに伴う心理ゲームについて理解しておくことは、獣医師が飼い主と適度な距離感で交流し、客観的かつ効果的な援助サービスを飼い主に対して提供する上で重要であると考えられます。前述のとおり獣医師や飼い主は、診察室の中でラケット感情を誘発するラケット行動や心理ゲームを無意識のうちに行っていることがあります。ラケット行動や心理ゲームは非生産的な時間の構造化の方法です。そしてこの時生じるラケット感情は、獣医師や飼い主に無益な後悔や無力感や怒りや罪悪感を生み出します。この感情は不快なだけでなく、生産的な治療関係を損なってゆくことに繋がります。治療者である獣医師は、ラケット感情に気づき、その感情に巻き込まれないように努めてゆくことが大切です。

 ラケット感情に巻き込まれないようにする最初の一歩は、獣医師がラケット感情に気づくことから始まります。前述したとおり、ラケット感情は偽の感情です。そこで、獣医師が今感じている不快な感情が本物の感情かラケット感情かを洞察して明らかにする必要があります。本物の感情は、怒り(mad)悲しみ(sad)怯え(scared)喜び(glad)の4つと子どもが感じるような身体感覚(落ち着いた、空腹の、疲れた、興奮した、うんざりした、眠いな)だけです。そして、本物の感情は今ここで生じている問題を解決することに繋がってゆきます。それ以外の感情はラケット感情であり、それが同一の状況や同一の人に対して何度も感じているのであれば心理ゲームを行っています。

 また、ディスカウントが、ラケット感情に関係しています。ですから自分や他人が行っているディスカウントに気づくこともラケット感情に気づくことに繋がってきます。ディスカウントに対する4つの受動的行動(何かしなければいけない時に何もしない、過剰適応、いらいら行動、無能または暴力)は、ラケット行動や心理ゲームの始まりにおいてよく観察される行動です。このような行動を自分や他人が行っていないか気づくことによって、ラケット感情に気づくことが出来ます。

 ラケット感情に気づいたら、そのもとになっているラケット行動や心理ゲームをやめる行動をとります。Aによってゲームを分析し、自分が仕掛人や乗る人になっていないか考えてみます。自分がラケット感情によって相手に接しているとき、あなたがゲームを仕掛けている可能性があります。また、獣医師のような治療者は「助けてあげたい」とする弱みを持つので、その弱みによって心理ゲームに引き込まれて乗る人になっていることもあります。心理ゲームと分かれば、AからAへの対話で対応すること、交差交流で対話を中断させること、ラケット感情に浸らないようにすること、等の対処で不毛なストレスやラケット感情を被らなくて済むようになります。

 心理ゲームは不足したストロークを得るために行っています。そこで日ごろから肯定的ストロークを交換するように意識しストローク飢餓に陥らないようにすることも心理ゲームの回避に効果的です。また、時間の構造化を再検討することも心理ゲームの回避効果が期待できます。ラケット行動や心理ゲームで費やしている生活時間を他の時間に割り当てるようにすれば、おのずとラケット感情を感じる時間は減少してゆくでしょう。

 ラケット行動や心理ゲームはその人がもつ歪んだ幼児決断や人生脚本に基づいて執り行われています。ラケット感情は「わかっちゃいるけどやめられない」感情です。ラケット感情は、幼児決断や人生脚本の影響を強く受けて感じている感情のため、容易に捨て去ることができません。自分の中に生じているラケット感情が、どのような幼児決断や人生脚本の影響を受けてきたのか洞察することは、自分のラケット感情の意味を知り、ラケット感情を自律的に取り扱うことができるようになると考えられます。このためには時に専門的な心理カウンセリングが必要となることがあります。また、飼い主やスタッフである他者が同様の人生に抱いている問題点からラケット行動や心理ゲームを行っていることを知れば、他者への思いやりから交流することが出来るのではないかと思います。

 

獣医師と飼い主のAの活性化の実際③

〜ラケット感情やディスカウントに伴うラケット行動や心理ゲームの意味について理解することで獣医師が飼い主の事情に巻き込まれないようにする。

Aを働かせてラケット感情に気づく 〜心理ゲームに巻き込まれないように

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