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 金児(2006)は、ペットへの愛着が強い人ほど主観的幸福感が低いことを報告しています。この論文の中でペットを飼うことやペットに強い愛着を抱くことが飼い主の社会的交流を妨げ、日本人の飼い主の幸福感増進を阻んでしまっているのではないかと考察しています。そもそも幸福感が低い人や他者からのサポートが少ない人がその埋め合わせのためにペットを飼育し、それゆえにペットに強い愛着を抱くようになっているのではないかということに言及しています。

 このようなことが指摘され始める中で、ペットとの依存的愛着が強くなっているために、人との関係を断ってしまって孤独死を迎えてしまう高齢者、ペットの世話のため入院を渋って病状が進行してしまう高齢者の増加も問題になっています(NHK,2014)。

 高齢者の飼い主にこのようなことが起こるのは、昨今の社会情勢や判断力・体力の低下が関連していることが想像され、たいへん複雑な問題であると考えられます。昨今の社会情勢から頼れる他者がおらず、孤独が増しているからかもしれません。超高齢化時代、核家族を超える“個”家族時代を迎えている日本では、希薄になった人間関係の寂しさ・ストローク飢餓を解消するためにペットが飼育されているケースは増えるでしょうから、主観的幸福感の低い人がペットを飼育し、ペットに対する依存的愛着によって社会的な関係を犠牲にする飼い主は現時点よりも増えるのではないかと推察されます。このような事態は、前述したペット飼育が飼い主のAを抑制することペットとの共生関係が起こり得ることなどが関係し助長されてゆくことが想像できます。この問題の根底にペットが愛を注がれる対象としてではなく、依存するための対象として飼育されていることが関係していると思います。

 不幸なペットを増やさないという視点で考えるとき、この問題は社会の情勢が関わるため、高齢者が病気をした時のペットを引き取ることが出来る施設(ペットの老人ホームのような施設)が拡充されてゆくこと、ペットを飼育する高齢者同士のコミュニティづくりを促進することなどの社会的対応が不幸なペットを減らすための解決策の一つになってくるでしょう。しかし、それだけでよいのでしょうか。

 この問題の本質は、ペットが依存対象として飼育されていることにあります。そして、人はペットとの関わりだけでは社会的問題を引き起こしてしまうことが顕在化していることにあります。便利になった現代においても人が幸福感を感じて生活するためには、好悪に関わらず必ず人との関係を持つことが必要であることを示しています。このようなことを踏まえると、交流分析で考えられるペット飼育のメリット・デメリットが社会的に広く知られてゆくことは、人とペットの関係を適正なものにするために肯定的な効果を生むことは期待できます。

 また、ここで示すような高齢者が、他者と接触をとる窓口の一つに動物病院やペット美容室があると考えられます。つまり、動物病院やペット美容院は、このような高齢者の第一発見者や最初の相談役になりえる可能性を秘めています。動物病院やペット美容院が交流分析的なペット飼育のメリット・デメリットを意識しながら、自己幸福感が低下しやすい関係でペットを飼育している飼い主に適切に対応し、状況によっては飼い主が相談できるような行政機関や医療機関を紹介するなど、飼い主の対人交流を高められるような施設・社会資源とつなぐ役割をはたすことが今後必要となってくるのではないでしょうか。社会的なペット・飼い主問題を考えるうえでも、交流分析的な獣医療理解、飼い主‐ペット関係の理解は今後必要になると考えられます。

高齢者のペット飼育の問題

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