杉田(1990)は、九州大学医学部心療内科での交流分析の臨床応用から、交流分析による治療者の自己認知は、有益な治療的交流を形成するうえで有効であると言及しています。人間の医療において身体的な症状はもとより家族や職場、友人などとの間で問題を抱える患者のストレスを、治療者が理解し接することは、円滑な治療を行う際に欠かせません。しかし何らかの原因で治療者と患者の関係がもつれて、そちらにエネルギーを費やし治療自体に影響を及ぼすことは起こりうることです。その際、治療者自身が自分を理解し、患者との関係で生じている出来事を理解することは、本当の意味で患者の心を理解し、適切な援助や治療を提供することにつながると考えられます。交流分析では治療者が行っている自己認知と他者との交流様式をわかりやすく理解することを手助けしてくれます。さらに、交流分析は治療者としてだけでなく、友人との人間関係、職場での人間関係、家族の人間関係、子育てなど様々な人との交流の中で応用可能であり、非常に便利な臨床心理学的な概念体系です。

治療者(医者や看護師)の自己認知の必要性

 獣医師は、交流分析を用いることによって、獣医師自身の性質とコミュニケーションのあり方を理解し改善することが可能になると考えられます。そして、このことを通じて他者である飼い主や病院スタッフを理解することも出来ます。

 交流分析では「相手を自分の思うように変えることが出来ない」ことを示しています。よって、獣医師と飼い主の関係性が引き起こす社会や人間心理が関わる獣医療問題は、獣医師が相手(飼い主)を変えようとすることでは解決できません。治療者自身である獣医師が自己を認知し、飼い主とコミュニケーションする方法を変えてゆくことでしか対応できないと考えます。しかし、自分が行う交流のやり方が変わると、相手の反応や態度も変わります。このことによって自分と周囲の人たちとの関係が変わってくることがあります。この変化が多くの人に連なってゆけば、自分の周囲だけでなく大きく社会や未来を変えてゆく力になりえます。つまり、獣医師をはじめとする獣医療治療者が交流分析を学び自己認知を深め、周囲の人たちと関わってゆくことによって、獣医療を取り巻く社会や人間心理が関わる問題を解決する糸口となり得ると考えられます。

社会や人間心理が関わる獣医療問題への応用