獣医療場面で交差交流裏面交流が生じることもあります。そして円滑なコミュニケーションを営むためには、交差交流・裏面交流も必要となることがあります。しかし、相補交流と異なり、交差交流や裏面交流の特徴からコミュニケーションの破たんを招くこともあります。これを防ぐため、獣医師は、交差交流と裏面交流についての特徴を把握し、裏面で行われる心理レベルの交流に気づく必要があります。交差交流や裏面交流が獣医療場面で用いられている時、次のような状況が想定できます。

 まず、獣医師と飼い主との意見や価値観の相違が関係する場合です。たとえば、亡くなりそうな動物の治療の際、獣医師が治療によって何とか助けてあげようと考えているにもかかわらず、飼い主は苦しんでいる動物を見ていられず裏面交流で暗に安楽死をしてもらいたいと匂わす態度や発言をしている場合です。獣医師と飼い主の意見や価値観が異なっているけれども相補交流を保ちたい気持ちが働くため、鋭角裏面交流や二重裏面交流になってしまう場合があります。

 次に、獣医師や飼い主の交差交流や裏面交流を起こしやすい性質が関係する場合です。たとえば、獣医師または飼い主あるいは双方がラケット行動や心理ゲームを起こしやすい交流パターンを持っているケースです。このような性質を持つ人は自我状態がある自我状態に固着しやすい傾向があると言い換えることができ、その自我状態から反応するため交差交流や裏面交流が生じやすいと言えます。

 そして、獣医師や飼い主が無意識に相手に何か望んでいる場合です。自分の気持ちや感情を言葉にして表現することを苦手としている人や、人生態度・幼児決断・人生脚本の影響でラケット行動をとってしまいがちの人は自分の要望や希望を言葉にして表現することが難しいことがあります。このような時、自分の気持ちや感情が言葉裏に態度やしぐさで観察され、裏面交流や交差交流として表現されてくることがあります。

獣医療の交差交流と裏面交流

 次に挙げる特徴から、交差交流・裏面交流が生じている意味や裏面で行われている心理レベルでのやりとりの意味に気づくことによって、獣医師は適切な交流パターンを選択することができるようになります。

 交差交流を不意にまたは不要に多用する人は、相手の反応に合わせて交流することを苦手としている可能性があります。このため、相手がどのような自我状態から交流しているかに関わらず、自分の考えや気持ちを優先して発言してしまいます。いわゆるKY(空気読めない)と認知され、状況をつかめていないような感覚を相手に与えることがあります。不安や精神的な衝撃など何らかの理由で現実を適切に評価・認識しそれを語る能力が低下していることが考えられるか、Aの働きが抑制気味でCおよびP優位の自我状態にあることも考えられます。相手にこのような性質を感じたとき、相手の話をよく聴きながら、相手の今の自我状態を感じ取り相補交流した後、Aの自我状態に誘う交流を心掛けることで、交流の適正化を期待できるかもしれません。

 裏面交流を不意にまたは不要に多用する人は、自分の本当の気持ちを無意識の中に押し殺してしまい、言語化して相手に表現することを苦手としている可能性があります。Aの抑制が目立てば、裏面交流によってラケット行動や心理ゲームの仕掛人になることがあります。もし裏面交流を意図的に使用しているならば、自分はnot OKの人生態度が強い可能性があります。裏面交流を多用する人への対応に関しても相手の話をよく聴いて、相手の今の自我状態や希望を感じ取って、その評価に基づき相手をAに誘う交流を心掛けることで交流の適正化を期待できるかもしれません。

 実際の獣医療場面において交差交流や裏面交流は、どのように用いられるでしょうか。

 前述したとおり、交差交流は、オプションの際に用いられます。鋭角裏面交流は、相手の状況や気持ちを思って行う交流の結果、診療において肯定的な効果が出ることが多い交流です。交差交流と二重裏面交流は、診療において否定的な効果が生じることも考えられます。交差交流は会話が途切れたり、自我状態の変更を余儀なくされることがあります。二重裏面交流は裏面で行われる隠された心理レベルのやりとりにたいして違和感や不快感を生むことがあります。獣医師は、交差交流や裏面交流に気が付くことでこれらの交流の否定的な効果を避けるができます。

 円滑な対話を回復させるために獣医師がまず評価しなければならないことは、交差交流や裏面交流が生じているのは、獣医師が刺激を発しているからなのか、または、飼い主の刺激に獣医師が反応しているからなのかを明らかにすることです。獣医師があえて交差交流を起こしてしまっている場合や無意識的に裏面交流で交差交流をしている場合は、獣医師の交流パターンを変化させる必要があります。それとは逆に飼い主が交差交流や二重裏面交流を行っている場合には、明らかな医療過誤や過失が獣医師側に存在しないのであれば、飼い主の性質が関係しています。

 どちらにしても何度も何度も繰り返される交差交流や裏面交流は、獣医師と飼い主双方のAが働いていないことが関係しており、ディスカウント心理ゲーム人生態度人生脚本の歪みが関連していると考えられます。ディスカウントや心理ゲームは、不毛な対人交流のため、飼い主との生産的な治療関係を構築することに繋がらないことが考えられるので、獣医師はAを働かせこの交流の改善のため対応してゆくことが求められます。裏面交流は言葉の裏に隠された心理的交流のため、獣医師にまず要求されることは裏面交流に気づき意識に上らせることだと考えられます。その上で対策を練ることが大切だと考えられます。

 このように交差交流と裏面交流の性質を理解し、交差交流や裏面交流に気づき、なぜ生じたのかを分析することは、飼い主との円滑なコミュニケーションを回復させることに肯定的に働くことが考えられます。