自我状態の汚染と除外

 ここまでは、自我状態のP、A、Cは、はっきり分かれているという仮定のもとで人の心の様式について説明してきました。しかし、時に二つもしくは三つの自我状態が重なって認識されることがあります。一方の自我状態がもう一方の自我状態の境界を超えて重なる部分ができている状況です。これを自我状態の汚染と言います。

親からの汚染

AがPによって汚染される。代表的な事柄に「偏見」がある。

子どもからの汚染

AがCによって汚染される。代表的な事柄に「妄想」がある。

複合汚染

AがCとP両方によって汚染される。

自我状態の汚染

 汚染はAPによって汚染される「親からの汚染」、AがCによって汚染される「子どもからの汚染」、AがCとP両方によって汚染される「複合汚染」があります。

 親から教え込まれた信条がAから発せられた言動であると認識している場合を「親からの汚染」といい、代表的な事柄に偏見があります。「男はみんな男らしくあるべきだ」「人は信用できない」など、「自分は」という代わりに「人は・・だ」「あなたは・・・だ」という信念は「親からの汚染」が関係しています。

 子ども時代に形成された思い込みでAの機能を曇らしている場合を「子どもからの汚染」といい、代表的な事柄に妄想があります。言われてもいないのに「あの人は私を嫌っている」「私はなにもできないのだ」と子ども時代の思い込みによって行っている判断をAからのものと考えている場合です。Cの汚染がものすごく幼児期のものであると「死んだ人は呪文で生き返る」「宇宙人が私をねらっている」といった現実検討の能力の欠如した信条をAからの判断と考えることになります。「複合汚染」は両方の汚染があるので「人は信用できない」と「私は何もできない」の複合汚染から「大切なことは人に言ってはならない」という信条を信じてしまったりすることになります。交流分析の研究者の中にはすべての汚染には「複合汚染」が関与して、その汚染を強めていると考える人もいます。汚染は、現実的には妥当性の低い信条につながっており、後述する幼児決断や人生態度人生脚本に深く関わってきます。

 汚染による考え、感じ方、行動は、「いまここ」の自分の感情や適切な判断に基づいていないため、Aが適切に働いていない状態と考えることができます。よって汚染は、人が自律性を発揮することを大きく障害してきます。このような害がありながら、汚染を持っている本人は、自我状態が汚染されていることに気づきづらい特徴があります。このため、交流分析を心理カウンセリングに応用する際に目標とされることの一つに、クライアントに汚染を気づいてもらうことがあります。交流分析では、気づくことが難しい自我状態の汚染から解放され、「いまここ」の自分で感じ考えた適切な行動をとれるようになることを目標にカウンセリングを行います。

 自我状態が汚染を起こすだけでなく、P、A、Cの自我状態のうちいずれか1つもしくは2つの自我状態を締め出して行動を起こしている場合があります。このような状態を自我状態の除外と言います。

自我状態の除外

Cの除外

感情的な情動を締め出す。アレキシサイミア(失感情症)に関連

Aの除外

現実検討能力(事実に即して適切に判断し行動する能力)を欠く

Pの除外

世の中の規律を守れず新しい状況ごとに自分の規律を作り行動する

 Pを除外した人は世の中の規律を守れず、新しい状況ごとに自分の規律をつくり行動します。Aを除外した人は現実検討能力(世の中の事実に即して適切に判断し行動する能力)を欠いています。このため自分の感情や親から与えられた信条に振り回され、精神的に病んでしまっている可能性もあります。Cを除外した人は感情的な情動を締め出しています。「どんな感じですか?」という質問に答えられず、アレキシサイミア(失感情症)という状態になってしまうこともあります。

 一貫した自我状態をとる人がいるということも仮定できます。A、Cを締め出して一貫してPだけの人は、質問をされたときPの信条から返答するだけで、どこかその人の本心や感情を感じられない印象を受けるでしょう。P、Cを締め出して一貫してAだけの人は、感情を感じられず、かといって批判的でもなく、人間らしさを感じられない印象を持つでしょう。P、Aを締め出して一貫してCだけの人は、大人になっても子供のように感情に素直で“未成熟”“ヒステリー”といった印象を受けるでしょう。自我状態の除外や一貫した自我状態については、完全に除外または一貫した自我状態をとる人というのはあり得ないと考えられています。あるシチュエーションや心理ゲームのときだけ生じていることが多く、人生態度や人生脚本に影響を与えていることが多いと考えられます。

 汚染や除外、一貫した自我状態をとる人は、身の回りに起こる出来事や人間関係において柔軟な対応をとることが難しいと考えられ、ペットの虐待やインフォームドコンセント不良など、獣医療を取り巻く様々な問題に関連していると考えられます。

 

一貫した自我状態

一貫してC

大人になっても子供のように感情に素直で“未成熟”“ヒステリー”といった印象を受ける

一貫してA

感情を感じられず、かといって批判的でなく人間らしさを感じられない

一貫してP

質問にPの心情から返答するだけで、どこかその人の本心や感情を感じられない印象を受ける