獣医療をひも解く心理学 〜Psychology for Veterinary care〜
人生脚本の分類 〜勝者、敗者、非勝者の脚本
人生脚本を分類するうえでその人生脚本がその人にとって有益なのか有害なのかという視点から分類されることがあります。人生脚本は、その人にとって有益であればそのまま脚本を生きてゆくことを選択してOKと考えられますし、有害であれば自分の望む脚本に書き換えることも可能です。人生脚本が有益であるか有害であるか、人生脚本を書き換えるか否かを決めるのはその人自身であるということが重要です。人は、自分の責任で自分の選んだどのような人生脚本でも生きることができるということが、交流分析の目指す“自律性”ということになります。
人生脚本が有益か有害かを考えるとき、交流分析で行う一つの考え方が、その人にとってその人生脚本が勝者の人生脚本であるか敗者の人生脚本であるかという視点です。もちろん程度の問題で、完全な勝者、完全な敗者という人生脚本を持つ人は少ないと考えられています。
勝者の人生脚本を持つ人は、自分に対して自信があり、他人に対して基本的信頼感を持っています。人との交流は積極的で建設的です。生活はいつも生き生きしていて自分で自分をコントロールできます。そして自分の人生に責任を負っています。自分で人生の目標を決め、それに向かって全力を尽くし、失敗を糧に最後に成功を収めることができる思考回路を有しています。
敗者の人生脚本を持つ人はこれとは反対です。自分に自信がありません。他人に対してどこか不信感を持っています。過去を後悔しとらわれ、今や将来に不安があります。人との交流は消極的で閉鎖的です。環境に影響されすぎ、自分のコントロール感を失っています。自分で自分の人生の責任が取れません。
さらに第3の中間的な立場として非勝者の人生脚本を持つ人もいます。この人は何事につけてもみんなと同じレベルになると満足し、物事に対して中途半端に対応します。頼りにもされないが無視もされないといった中間的な立場にいます。
人は時に勝者、ときに敗者、時に非勝者の脚本を揺らぎながら生きています。完全な勝者、完全な敗者の脚本で生きている人はほとんどいません。交流分析ではもちろん勝者の人生脚本を生きることを目指します。自分に対して開かれ充分に気付き、自発的に行動思考し、他者と親密な交流を行う自律的な人生を目指すことをゴールとしています。
人生脚本は時間の構造化を決定する方法でもあります。時間という観点で人生脚本を分類すると、勝者の人生脚本は、「いまここ」を生きることを志向しています。敗者の人生脚本は「過去」を生きています。過去の不運や栄光にとらわれ、現在や未来を自ら踏みにじってしまっています。また、「将来」の不安に悩まされながら今を過ごしています。時間の構造化の観点から分類されるいくつかの人生脚本の例を示します。
①“その後”式の脚本(”after“ script)
しばらくの間はいいが、将来の不安に恐れながら今を生きている人の人生脚本です。「あと何年かしたら、愛犬が病気になってしまう」「愛猫が死んだら私は独りぼっちになってしまう」と、将来起こる不安を常に抱いている人の人生脚本です。
②“いつまでも”式の脚本(”always“ script)
「親の言うことを聞きたくないならそうしていなさい」といったメッセージを親から受け取った人の人生脚本です。家を出てずっと実家の敷居をまたがない人、違法薬物やお酒で身を持ち崩すことで親から受けたメッセージを実践する人などがこの人生脚本の影響を受けている人です。反対に、自分の意思を曲げずに物事を成し遂げ社会的成功を収める人もいます。
③“・・まで”式の脚本(”until“ script)
「物事を成し遂げるまでは、それに伴うご褒美はもらうべきではない」といったメッセージを親から受け取った人の人生脚本です。「将来」のために「今ここ」を犠牲にしている生き方です。人生ゲームの「苦労性」に関係している人生脚本で「頑張って苦労して、ゆくゆくは肝心な時に病気になってしまう」という過程をたどります。「この子(ペット)のために毎日動物病院で治療を頑張って受けさせる」と言って自身が健康を害したり、経済的にひっ迫してしまう飼い主などがこの人生脚本にあてはまります。
④“決して”式の脚本(”never“ script)
幼少期に親から自分のどうしてもしたかったことを禁じられたことに起因して、大人になってからも自分の望むことがありながらもそれを手に入れる行動をとれず、いらいらしながら人生を過ごすような人の人生脚本です。親からの幼児決断の影響で「自分のために何も欲するな」と人生を過ごしており、自身の本当の欲求にふたをして自分を欺いて生きています。このため、自分で自分にストレスをかけうつ病や過敏性腸炎など病気を発症したりすることがあります。
⑤“いくたびも”式の脚本(”over and over“ script)
成功直前に必ず失敗を犯すような人の人生脚本です。親からの拮抗禁止令や禁止令の影響で、「親を超えるな」「親より幸せになるな」というメッセージを受けたため、成功をつかむ直前で無意識に自分が失敗するように仕向けてしまいます。試験やテストの本番でどうしても自分の力が出し切れない人がもつ人生脚本です。
⑥“無計画”式の脚本(”open-ended“ script)
あることを頑張って成し遂げた人が、その後の時間を持て余し、漫然と時間を過ごしてしまうような人の人生脚本です。退職後人生の目標を失ったように老け込んでしまう人などがこの人生脚本を持っています。会社で何十年も頑張っていたのは、実はその人の親から受けたドライバーによるもので、自律的に自分で決定して仕事をしていたわけでなかったため、仕事以後の人生についての人生脚本を持ち合わせていなかったのです。中高年のうつ病などと関係する人生脚本です。