獣医療をひも解く心理学 〜Psychology for Veterinary care〜
相補交流(そうほこうりゅう)
相補交流は対話分析の図において矢印は交差しません。刺激する側の期待通りの反応が返ってくるので、理論上話は次から次へとつながってゆきます。相補交流は、刺激する側のP、A、Cそれぞれの自我状態から反応する側のそれぞれのP、A、Cに向けて行われるため、図に示すような9通りのパターンがあります。それぞれの相補交流の特徴と事例を図示しています。診察室で行われる円滑な会話の多くは相補交流です。例を参考にしていただくとその交流がどの相補交流で、どの自我状態が働いて行われているか理解することができます。
P ⇄ P の相補交流
P ⇄ P の相補交流
PからPへの相補交流は対等な立場で第三者を称賛したり、批判したりする場合の交流パターン。
例
S:獣医師「あの先生は最近頑張っているらしいね」
R:獣医師「同感です。いろいろ噂は耳に入ってきます」
P ⇄ A の相補交流
P ⇄ A の相補交流
PからAへの相補交流は相手の理性に向けて提示したり意見を述べる刺激に対して理性的に反応する交流パターン。Pからの対話なので、相手を従わせるニュアンスがある。
例
S:獣医師「病気の診断はこう思うので、このようなケアをしてみてはどうですか」
R:飼い主「わかりました。そうしてみます」
P ⇄ C の相補交流
P ⇄ C の相補交流
PからCへの相補交流は相手を叱ったり、命令したり励ましたりする交流に対して素直な気持ちで反応する交流パターン。
例
S:獣医師「この病気の治療にはこの薬をあげなければだめです」
R:飼い主「先生、わかりました。薬をあげてみます」
A ⇄ P の相補交流
A ⇄ P の相補交流
AからPへの相補交流は相手の自尊心に配慮して提案したり意向を伝える。その提案に素直に答えるときの交流パターン。相手は強いか目上の立場であるが、理性的な部分から対話が行われている。
例
S:スタッフ「フィラリアの予防をお勧めしてみようと思いますがよろしいですか。」
R:院長「はい。お願いします」
A ⇄ A の相補交流
A ⇄ A の相補交流
AからAへの相補交流は、相手と情報交換したり、質問したり、挨拶する時の交流パターン。
例
S:獣医師「こんにちは。これから○○ちゃんの身体検査を行いますが、よろしいですか?」
R:飼い主「こんにちは、。よろしくお願いいたします。」
A ⇄ C の相補交流
A ⇄ C の相補交流
AからCへの相補交流は相手の状況を踏まえ相手の気持ちを汲み取るような対話に対して、素直な返答がある場合の交流パターン。傾聴の交流でみられるパターン。
例
S:獣医師「今回は、残念な結果になり辛いお気持ちをお察しします。」
R:飼い主「ご親切にしていただいて、ありがとうございました。」
C ⇄ P の相補交流
C ⇄ P の相補交流
CからPへの相補交流は相手を強いもの、偉いものとして敬意の念を持って話しかける交流パターン、その刺激に上から素直に反応している。
例
S:飼い主「先生、お願いですから助けてあげてください」
R:獣医師「わかった。精いっぱいやってみましょう」
C ⇄ A の相補交流
C ⇄ A の相補交流
CからAへの相補交流は相手に率直な思いや気持ちを伝えて相手から冷静な判断や思いを受け止めた反応を期待した対話で生じる交流パターン。
例
S:飼い主「この子に注射を打つのを可愛そうで見ていられないんです。」
R:獣医師「わかりました。痛くないようにしますので、別室でお待ちください。」
C ⇄ C の相補交流
C ⇄ C の相補交流
CからCへの相補交流は対等な立場で素直な自分の気持ちを伝え、その刺激に素直な気持ちを返す交流パターン。
例
S:獣医師「やった。よくなってうれしいね。」
R:飼い主「ほんと、よかったうれしいな」